エリー、 君が出ていくのを
見たくないから…
寂しくて 耐えられないから…
日本に帰るたびに そう言って
マークは起きてこない。
今回も 寝ているマークを起こさない
ように まだ 暗いうちに家を
そっと出て 迎えのバスに乗った。
朝 4時にここを出て 日本の実家に
着くのは 夜の10時前。
この長旅には 毎回ウンザリするが
それでも ウキウキする気持ちは
抑えられない。
空港の出発ゲートに行くと
なんとなく もう「日本」を感じる。
関空行きの便を待つ人たちの話す
大阪弁を聞くと 途端に
「日本人モード」になってしまう。
無事に 実家に到着すると
母が出迎えてくれる。
毎回 岩手から取り寄せたそばと
山芋短冊を用意してくれる。
私が リクエストするから…
枝豆 シャキシャキのきゅうりの
サラダ 野菜の煮物 …
夜遅くても 胃にやさしいものが
テーブルの上に並んでいる。
母の心遣いに 感謝の気持ちで
いっぱいになる。
アサヒ スーパードライを 開ける。
このビール オーストラリアでも
売っているけれど 日本製では
ないので 味が違う。
日本で飲む 日本のビールは
やっぱり 美味しい。
前回 帰国した時は 真っ先に
マークに電話して無事に着いたことを
知らせたけれど 今回は メールで
済ませることにした。
とりあえず 報告しておけば
いいだろう。
この2週間 リアルタイムで
思いっきり 日本のテレビを見ようと
思っていた。
テレビをつけっぱなしで
チャンネルを パチパチと変えて
どんな番組があるのか見るのが
楽しみだった。
今までは 毎日
夜のゴールデンタイムに マークから
スカイプがかかってきて
「今日は 何をしたの?」
「今日は どこに行ったの?」
「今日は 誰と会ったの?」と
根ほり葉ほり聞かれて 2時間近く
話をしていた。
「エリーのママと話したい」と
言ったこともあって 一度 母と
話したことがあったが あんまり
色々 質問するので 母も
ウンザリして 2度と スカイプで
顔を見せようとはしなかった。
せっかく 日本に帰っているんだから
テレビをリアルタイムで見たいし
友達とも 電話で話したい。
だから なるべく 早く
マークとの話しを
切り上げようとするのだけれど…
「エリー、 僕は 一人で家に
いるんだよ。 君がいなくて
とっても寂しくて… 早く帰ってきて
欲しいって そればっかり思ってる。
もう少し エリーの顔を見て
話していたい」 と マークは言って
なかなか 「おやすみ」とは
言ってくれなかった。
友達は みんな 「よく 毎日
そんなに 話すことあるのね」とか
「私は 無事を知らせるために
ラインで写メ送るだけ。
メッセージも書かない」と 言って
「いつまでも 仲が良くていいね」
と 私をからかう。
私だって 好きで 毎日2時間近くも
話をしているわけではなかった。
「エリー 日本に行ったら 十分
楽しんできてね。 僕のことは
考えなくてもいいから…」 と
毎回 私に 言いながら
結局 毎日 スカイプで 話したがる
マークの相手を
させられているだけだった。
でも 今回は違う。
きっと スカイプなんて
かけてこないだろう。
デビッドや クリスと 電話で話して
寂しいなんて 思わないだろう。
そう 思うとなんて気が楽なことか…
初めてゆっくりできる気がしていた。
久しぶりの 母の手料理を堪能した後
ジェットバスの お風呂に入って
身も心も あったまり 改めて
家族のありがたさを 感じていた。