(65)誰のせいでもないけれど…

エリカの日常

マークとメアリーが帰って

しばらくウトウトしていたが

点滴を打っているほうの腕が

めちゃくちゃ痛くなって目が覚めた。

あまりに痛いので

ナースコールを押した。

看護師が来て 腕をチェックした。

 

「あら 腫れているわね。

液が漏れているんだわ。

ドクター呼んでくるから待ってて」

と言って部屋を出て行った。

 

オーストラリアの看護師は

注射を打たないらしい。

点滴をする針は麻酔医が刺して

看護師はジョイント部分に点滴の針を

入れるだけだ。

 

1時間以上も待ってやっと医者が来て

もとの部分の針を打ち直してくれた。

責任所在をはっきりさせるためか

業務全てが細分化されている

みたいだ。

 

ラザニアと冷凍野菜の夕食を食べると

何もすることがなくなって

スマホを見るのにも飽きてしまい

目を閉じたら そのまま眠って

しまったらしい。

 

1時ごろ 目が覚めて

ひどくのどが渇いていた。

 

寝る前に 水をもらいに行こうと

思っていたのに…

 

ナースコールを押して

看護師を呼んだ。

 

昼間は 学生の見習いとか

若い看護師が多いのだが 夜間は

夜勤専門の看護師がいるらしく

全体的に 年配の人が多いみたいだ。

 

ちょっと 足を引きずりながら

太った看護師がやってきた。

 

「何か 用?」と 不愛想に聞く。

「水が欲しいの」 と 私が言うと

その士看護師は おいてあるカップを

取って 部屋の洗面台の水道から

水を入れた。

 

「あり得ない!」と ショックで

何も言えなかった。

 

冷たいペットボトルの水を取りに

行ってくれると思ったのに…

部屋の水道から水を汲んで飲むなら

いちいちナースコールはしない。

 

看護師が出て行ったあと

だんだん 腹が立ってきた。

 

少しの距離も歩きたくないんだろう。

なんて 怠慢なんだ。

 

朝早く 看護師が検温と血圧測定に

来た。 若いお姉さんだった。

 

どうしても冷たい水が欲しかったので

今度は ペットボトルの冷たい水が

欲しいと頼んだ。

 

「ペットボトルじゃなくて

氷の入った水でもいい?」と聞くので

 

「ありがとう。 それで十分」

と答えた。

 

「熱は?」と 聞いたら

「まだ 少し熱がある」 と

彼女が答えた 。

 

きっと 今日も 帰れない、

と 予想がついた。

 

朝食は 昨日選んだので

オートミールの代わりに

ロールパンとジャムとバターに

なっていた。

こんなことで ちょっと ハッピーに

なるものだ。

 

昨日と 同じくらいの時間に

ドクターが来た。

「どう?」と 聞くので

「まだ 熱があるみたい。 何かに

感染してるの?」

と聞いたら 「そうかもしれない。

でも 僕のせいじゃないよ」

とドクターが言った。

 

何も ドクターのせいで

感染したとは思っていない。

でも 管を抜いただけで

どうやって 感染するのか

わからなかった。

 

結局 もう一泊。

マークに電話したら 「エリー!

今日も 帰れないの? 僕 一人で

寝るの 寂しくて耐えられないよ」と

新婚の時なら ときめくようなことを

言う。

 

けれども 今の私は

「いい加減一人でしっかりしなさい」

と ちょっと ウンザリしてしまう。

 

マークは見舞いに来ると言ったが

「そんなに 毎日メアリーに

迷惑かけられないでしょ」と 諭して

「明日 また 連絡するから」

と言って電話を切った。

 

病院にいるのは すこぶる退屈だが

マークと距離を置く

いい機会になっている。

 

マインドフルネスの瞑想を何度もして

心を落ち着けることにした。

 

 

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