(61) 家族愛

エリカの日常

愛しているから 当たり前

兄弟だから 理解して 当たり前

あなたは そうやって

自分の理想の世界を探しているだけ。

 

 

最初は強がっていたクリスだが

毎日のようにマークと電話で

話しているうちに だんだんと

今の暮らしが大変だと

弱音を吐くようになっていた。

 

障害者手当をもらっているが 家賃・

光熱費・ガソリン代などをひくと

食費にまわすお金は

ホントに少ないらしい。

 

しかも 利き手の左側が

麻痺しているので 日常生活で

不自由なことが多いみたいだった。

 

そういう話を ひと月ほど聞いた後で

マークが 私に言った。

 

「エリー 僕は故郷のメルボルンに

帰ろうと思う。

クリスを助けたいんだ」

 

「えー? どうして 急にそんなこと

言うの? 前にビクトリアは寒いから

帰りたくないって言ってたし、

クリスのことだって あんまり

いいように言ってなかったじゃない」

 

「そんなことないよ。 確かに

若いとき ちょっと喧嘩をしたけど

兄弟なんだし 助けるのは

当たり前だろ?」

 

「メルボルンに行って クリスと

一緒に住むの? 悪いけど私

クリスの面倒みれないよ。

デビッドと同じぐらい

大きい人なんでしょ。」

 

「クリスは 自分のことは自分で

できるよ。 だから エリーが世話を

する必要はないよ。

一緒に住むほうがいいけど

どこか近くに住んでもいい。」

 

「でも 私 全然知らない所に

行きたくないよ。」

 

「僕がいるじゃない。

家族が 困っているんだよ。

助けて当然だろ?」

 

「じゃあ マーク 一人で行く?」

と 思わず言ってしまった。

 

「エリー! 僕を愛してないの?

僕は エリーがいないと生きて

いけないのわかっているだろ。」

 

マーク 一人の面倒を見るだけでも

精一杯なのに クリスの面倒まで

みれない。

何もしなくていいと言ったって

食事を作ったり 買い物に行ったり

結局私がすることになるのは

目に見えている。

気の毒だとは思うけど

どうして私が…と思ってしまう。

 

「クリスは絶対 喜ぶよ。

僕がそばにいたら。

だって 兄弟なんだから。

あんなに困っているクリスをほって

おくことなんて僕にはできない。

エリー、 一緒にメルボルンに

来てくれるよね。」

 

また 自分の思い込みで

全てが動くと思っている。

マークはいつもこうだ。

自分がいいと思ったことは

相手も絶対 いいと思うに

決まっていると信じている。

 

兄弟だから理解しあえて当たり前って

思っているみたいだけど

脳梗塞を患うと 性格が変わることも

あるときいたことがある。

 

まして もともと

あまり仲のいい二人では

なかったみたいなのに…。

 

「ちょっと 考えさせて。

まだ クリスには 言わないでね」と

マークに言った。

 

でも きっとマークは もう

メルボルンに行くって 決めていて

私が一緒に行くことも

決めているに違いない。

 

そしてクリスが私たちを歓迎するって

信じているに違いない。

 

理想の世界なんてないのよ!と

マークの幻想をすっかり消し去る

デリートボタンはないものだろうか?

 

 

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