(2)始まり

エリカの日常

La Grande Resort.

これが私の勤めていたホテルの名前。

 

家族経営の小さなホテルなのに 名前が大きい。

「お客様に 忘れられない素晴らしい時間を過ごしてほしい」

という思いで この名前にしたらしい。

 

私は レセプションの仕事をしていた。

ホリデー期間は オーストラリア全土をはじめ

海外からのお客様が多いけど

普段は 数少ない常連客で

どうにか経営が成り立っている

という状態だった。

 

マークはそんな常連客の一人で

2か月に一度ぐらいの割合で

ブリスベンから出張してきて

1週間ほど滞在していた。

 

彼は背が高く、引き締まった体をしていた。

いつも 少し恥ずかしそうに

笑みを浮かべていた。

緑がかった瞳と軽く波打つ金髪が

何かの映画で見た登場人物を思い出させた。

 

ある日 近くのフードコートで

一人でSubwayのランチを食べていた。

たいていお弁当を作って持っていくけど

この日は珍しく外食することになっていた。

 

「Hello, Ellie」

と声をかけられ 顔を上げると

マークが立っていた。

 

「ここに 座ってもいい?」

「どうぞ」

 

私の向かい側に座ると

Subwayの包みを開けて 食べ始めた。

 

「おんなじもの 買ったんだ」

偶然ってあるんだと思った。

 

ブリスベンから ゴールドコーストの支店に

転勤になったらしい。

引っ越してきてまだ半月なので

家具もそろっていない、とか

知り合いはいるけど友達がいなくて

ちょっと寂しい、とか話し始めた。

 

それでも ゴールドコーストは

ビーチがすぐ近くにあって

一人でも時間を過ごす場所がたくさんあるから

リフレッシュできる、とも言っていた。

 

なんとなくいい感じで 彼の話を聞いていたら

時間はあっという間に過ぎて

私は仕事に戻らなければいけなかった。

 

「I have to go」と言って

席を立とうとすると

「また 会える? 電話番号 教えて」

とマークが言った。

 

私も もっと話をしたいと思っていたので

「OK」 と言って電話番号を交換した。

 

これが 二人の始まり。

 

マークはもともとメルボルンの出身で

英語が聞き取りやすかった。

はっきり言って

ここクイーンズランドの英語は聞き取りにくい。

 

それに なんとなく物腰が柔らかで

そこらへんによくいる荒っぽい感じがしなくて

La Grandeに来ているときから

好感を持っていた。

 

仕事に戻ってからも

次にいつ会えるのかな? とか

冗談を言って笑った日のことを

思い出したりして

ちょっとウキウキしていた。

 

レセプションの電話が鳴った。

 

「La Grande Resort. Ellie speaking」

 

「予約したいんだけど」

 

「はい。 いつがよろしいでしょうか?」

 

「急なんだけど 今日 空いてる?」

 

「何名様ですか?」

 

「Ellie 僕だよ。  君を予約したいんだ」

 

キャー! 速攻で 電話がかかってきた。

まさか

ホテルに電話してくるとは思わなかったから

びっくり。

 

「いいよ。 6時に終わるけど」

 

頭が真っ白になって

考える暇もなく OKしてしまっていた。

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