(15) けものフレンズ

エリカの日常

人の脳というのは

「古い脳(動物的な脳)」の上に

「新しい脳(理性的な脳)」が

増設されている。

 

エネルギーが下がると 新しい脳が

働かなくなって 古い脳が働き

そこにいる「けものフレンズ」が

顔を出してくるらしい。

 

マークと暮らして5年の月日が

経っていた。

マークの障害になるもの、

マークのできないこと、

マークの行けないところ…

少しずつ 理解しながら 毎日

小さなことに気を遣う日々を

送っていた。

今 思うと 本当にエネルギーが

切れてしまっていた。

 

しょっちゅう登場した

「けものフレンズ」は

『キツネさん』だった。

イライラしてヒステリックになる。

 

マークはお出かけが好きで

気分のいいときは 外食するのが

楽しみだった。

けれども 突然

パニックアタックが起きて

「行けない」ということも

しょっちゅうだった。

 

予定通りにレストランに行ったら

「ダーリン wipesは?」 と

私に聞く。

『キツネさん』が出てきている私は

「ダーリン」という言葉に

イラッときて

ウェットティシュを投げつけるように

渡したり

「絶対に 手を拭かないと気が

済まないなら 自分で用意したら!」

と 言わなくてもいいことを

言ったりした。

 

『たぬきさん』も登場した。

何にもする気がなくなって

ぐだーっと寝転んでいたかった。

 

「エリー 散歩に行こうよ」

「一人で行って」

「ぼくが一人で行けないの

わかっているだろ」

「でも なんだか 体がだるい」

「僕は運動しないといけないんだ。

太陽の光も浴びないといけない。

セロトニンを活性させるために

必要なんだ」

 

セロトニンなんて知らない。

薬を飲んでるでしょ。

遠くに行けないのなら

裏庭で日光浴して

縄跳びでもしたら?

心の中で ブツブツ言って

ブスーとしながら

出かける準備をした。

 

『へびさん』が登場すると

厄介だった。

マークのなにもかもが嫌になり、

どうして私だけこんな目に遭うの?

という思いが ぐるぐると

とぐろを巻いた。

 

「エリー 薬がないんだ。

今日 飲む薬がない。 買ってきて」

「どうしてもっと前に言わないの。

毎日飲むのにチェックしてないの?」

「まだ ワンシートあると

思っていたんだ。 早く買ってきて」

 

ああ、めんどくさい!

なんでも私に頼めばいいと思って。

薬がないと困るなら もっと

注意すればいい。

 

ダーリン、ダーリンって いい加減

私に頼るのやめてよ。

できないことは 開き直って

私がするのが当然!みたいな

態度はなに?

できないなら もっと

謙虚にお願いしなさいよ!

 

めんどくさい! うっとうしい!

もう いやだ! もう いやだ!

 

マークは相変わらず 「I love you」

を連発していたが

「こんなに君を愛している

僕をかまって」

「僕を愛しているなら 僕のために

何でもして」

と 言っているように思えた。

 

気が付かないうちに疲れきっていて

「理性的な脳」は働かなくなり

「動物的な脳」がフル活動

していた。 キツネさん、

たぬきさん、へびさんが

やりたい放題だった。

 

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