(14) 紙婚式 Paper Wedding

エリカの日常

Happy Valentine Day!

Happy Anniversary!

 

バレンタインデーにヨットで式を

挙げてから1年が過ぎた。

 

結婚1周年を紙婚式という。

アルバムとか手帳といった紙で

できたものをプレゼントするらしい。

 

私は小さなアルバムを買って

プリントした写真にコメントを

書いてマークにプレゼントした。

写真の中の二人はいつも幸せそうに

笑っていた。

 

「どこか 素敵な場所で記念日を

過ごそう」と マークが言って

コンラッドジュピターに泊まって

ディナーとショーを予約することに

した。

 

2時のチェックインに合わせて

コンラッドジュピターに到着した。

駐車場から レセプションへ

エレベーターはあるが

マークは避けたがった。

地下2階から 1階のレセプション

まで階段を使った。

 

予約の時に 5階以上は無理と

伝えていたにもかかわらず

5階の空いている部屋は

下の階のルーフが付き出していて

眺めが悪いので ホテルの人が

気を利かせて 7階の眺めのいい

部屋を用意してくれていた。

 

「予約の時に言ったはずだ。

5階以上はダメだ」

と マークがキツイ口調で抗議した。

 

私はホテルの人の気遣いが

うれしかった。

記念日なんだから 眺めのいい部屋に

泊まりたい。

 

せっかくの気遣いも 高所恐怖症の

マークにとっては ありがた迷惑で

白いコンクリートの屋根しか

見えない部屋を取った。

 

ボーイさんの案内で5階まで

エレベーターに乗っていった。

さすがに5階まで階段で上るのは

疲れると思い 決心をして

エレベーターに乗り込んだのだろう。

 

ディナーまでに

かなり時間があるので

カジノをのぞいてみることにした。

カジノの入口でガードマンに

ビーチサンダルは ドレスコードに

引っかかると入店を拒否された。

 

ビーチサンダルを履いていたなんて

気が付かなかった。

マークと出かけるときは 彼の眼鏡

サングラス 携帯を準備した。

おまけに 何か食べるときには

ウェットティッシュで手を拭かないと

気が済まないので 必ず用意した。

まるで 小さな子供を連れて

出かけるみたいだ。

 

この日は 着替えや彼の薬、

洗面道具なども用意していたので

彼の履物まで気が回らなかった。

 

「なんで ホテルにビーサンで

来るんだ!」 と 腹が立ったが

今 言っても仕方がないので

階下の靴屋に行くことにした。

 

「ちょっと お手洗いに行って

くるから 先に行って見ていて。

高そうだったら 道路を渡った

ところにショッピングセンターが

あるからそこに行こうね。」 と

マークを一人で靴屋に向かわせた。

 

靴屋に行くと もうすでにマークが

お金を支払っていた。

「これ 今20%オフなんだ。」と

嬉しそうにマークがサンダルを

見せてくれた。

 

値段を見て びっくりした。

ベランダや庭先で ちょっと

履くようなサンダルが100ドル!

 

今日の予算は500ドル。

その5分の1を サンダルに使う⁈

道路を渡ったら

ショッピングセンターがあると

言っておいたのに…

 

「これ ここがレザーなんだ。

そのサンダルがよほど気に入ったの

か すごくうれしそうなマーク。

 

「ちょっと 道路を渡ったら

靴屋があるって言ったでしょ。

歩くのが嫌ならモノレールもあるし」

 

「モノレールはダメ!

レールが1本しかないなんてダメ!」

またしても 理解不能なことを言う。

 

返品して 違う店に買いに行こうと

言っても 聞き入れない。

「そのサンダル 家宝にして 一生

大事に履け!」と 心の中で叫んだ。

せっかくの記念日も しょっぱなから

ケチがついた。

 

いつまでも仏頂面をしていても

仕方がないのでカジノへと

向かった。

いっそ 予算の全額賭けてやろうか

というぐらいムシャクシャした

気持ちを抑えて…。

 

昼間なのでカジノは閑散としていて

カードゲームのテーブルの

客もまばらで 私たちはスロット

マシンのコーナーに行った。

一番低い掛け率でコインを投入しては

バーを下ろす。

マークと口をきかなくていいのが

救いだった。

 

ショーは8時から。

その前に夕食をとるにしても

まだ 時間があるので 一度部屋に

帰って シャワーを浴びようと

いうことになった。

 

ヘアのカードキーは

マークが持っていた。

エレベーターのドアが開いて

何気なく乗った。

5階を押したが反応はない。

エレベーターは一気に上がっていく。

 

「ウソ!」 何が起きたのか

私たちには理解できなかった。

「なぜ 止まらない。

5階のボタンを押したのに」

マークの顔がこわばり

ガタガタ震えだした。

私も どうしていいか途方に暮れた。

 

カードキーをセンサーに

かざしてから 行く階の番号を

押すシステムだった。

私たちはカードを出さなかったので

ボタンを押しても反応しない。

一気に上がるエレベーター。

18階のランプで止まった。

マークは頭を壁につけて

固まっていた。

 

18階の乗客が降りた時に

システムがわかった。

「カードキーはどこ?」 私が

叫ぶと マークは胸に手をやった。

ポケットからカードキーを

取り出して センサーにかざして

5階を押す。

ドアが閉じてエレベーターは

降り始めた。

 

ピンポン! という音とともにドアが

開くと フラフラとマークが

外に出た。

「18階なんて 行ったの…

初めてだ」 小さな声で言った。

 

油断していた。

マークがチェックインをしたので

説明を聞いていなかった。

ここにもまた マークの障害物が

あったなんて。

 

二人は 部屋に戻り シャワーを

浴びてベッドに横になった。

マークは少し眠ったら

落ち着いたようだった。

 

予約していたレストランに向かう

時間になっていた。

食事の後は マークが楽しみに

しているショーが始まる。

 

レストランのサービスは

予想通りスローだった。

飲み物のワインを頼み

メインディッシュが来る頃には

ショーの開幕まで

20分もなかった。

ゆっくり食事を楽しんで

デザートを頼む時間もなかった。

もっと 飲みたかったがショーに

遅れたくなかったので

お勘定を済ませた。

 

マークのお楽しみのショー。

戦時中にダンスを禁じられた

アイルランドの話。

禁じられてもダンスを

したい人たちが 足だけで

ダンスをし、感情を表現すると

いうものだった。

暗い戦時中のストーリーは

私には複雑すぎて理解できず

ダンスも 足だけでピョコピョコ

跳んでいるだけで あまり

面白いものとは思えなかった。

「すごく いいショーだったね。」

とマークは絶賛していた。

 

楽しいはずの1周年記念日。

私にとっては なんだか疲れた

一日だった。

 

 

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