メルボルンでの新しい生活を
始めたマークは
毎日のように電話をしてきた。
州を移動したので
免許を書き換えたり
提出しなければならない
書類があった。
必要な書類はどこにあるか とか
着ようと思う服はどこにあるのか
写真はどこに入れた とか
いちいち電話で聞いてきた。
クリスは 自分の車を マークが
運転するのを嫌がり
何か 必要なものがあるたびに
クリスの予定を聞かなくては
いけないのが不便だと 私に言った。
1か月ほど 経ったときに
「クリスの家を出た」という電話が
あった。
何が原因で そうなったのか
マークもわからないが 突然
クリスが 壁ドンして マークに
「出ていけ」と 言ったらしい。
ホントにオージーの思考回路は
理解不可能だ。 マークは
クリスが不便な生活をしているので
助けてあげたいと思って
わざわざ恐怖を乗り越えて
メルボルンまで行ったのに…
何が 気に入らないのか クリスは
「出ていけ」の一言でマークを
追い出した。
それから マークは一人で住む
ユニットを探した。
車がないので便利なシティに移った。
そこで マークは一人で買い物を
したり 一人でボールズクラブに
行ったりするようになった。
私がいないと どこにも行けなかった
のに 頼るものがいないとなると
一人で出来るものなんだと 思った。
ちょっと 甘やかしすぎたのかも
しれない。
ボールズクラブで 仲間ができて
私や 私の作った料理の写真を
見せたら 「お前は バカか?
こんなに 美味しいものを毎日
作ってくれて こんなに若くて
きれいな女性を置いてくるなんて」
と みんなに言われたらしい。
オージーからすると 日本人は若く
見えるし きれいというのも
お世辞だと思うけれど…
周りから そんな風に言われるし
自分は一人で住んでいるし…で
マークは やっぱり 私と一緒に
暮らしたいと思ったみたいだ。
「エリー こっちにおいでよ。
僕の生まれ育った場所を
見せてあげたい。
きっと 気に入ると思うよ」
「エリー とにかく 一度 こっちに
来て。 2,3日でもいいんだ。
航空券を送るから」
などという 電話を頻繁に
かけてくるようになった。
「今は 忙しいから 行けない」
「いつかは 行ってみたいと
思うけど…」
と 私は適当な相槌をうっていた。
「エリー こっちに来たら
僕と一緒に寝てくれる?」
と マークが聞くので
「そっちにいったらね」 と
答えはしたが 2度と マークと肌を
合わせることは無いと思っていた。
毎日のように かかってくる
ロメオコールに いい加減ウンザリ
していたが ここで
「もう 2度とかけてこないで!」と
きつく言って喧嘩別れしてしまうと
10年近くずっと我慢した結婚生活を
台無しにしてしまう気がした。
最初は あんなにも愛して
この人となら 一生一緒に生きて
いけると 思った気持ちに
嘘はなかったし 私の選んだ人を
否定したくはなかった。
メンタルシックネスにかからなければ
今でも 仲良く暮らしていた
かもしれない。
マークと 一緒に病気に向き合って
私もいろいろと学んだと思う。
あんなに つらい思いをしなかったら
マインドフルネスを学ぼうとは
思わなかっただろう。
今でも 何でも人のせいにして
感情的に物事を見ていたと思う。
全ての物事は自分の感覚の反応で
処理されている。
誰のせいでもなく 周りの何かが
原因ということはない。
全て 自分の感覚なんだ
ということがわかって
人との接し方がずいぶんと
変わったと思う。
離れてしまったので 言えることかも
しれないけれど マークにとって
この世の中は とっても
生きづらいものだと思う。
できる限り 理解して
支えていこうとはしたけれど
マークも 苦しみから逃れたいと
思うばかりでなく もっと
違った視点で 問題に取り組んで
欲しかった。
残念なことだけれど 最終的に
「お前なんかいらない」と
拒否されてしまえば それ以上
私には 何もできなかった。
あれから 5年の月日が経っている。
だんだん マークからの連絡も
無くなった…
今 どうしているのだろうか?
振り返ってみて 私の結婚生活を
後悔することは無いけれど
マークが 去って行ったことを
残念に思ったことは1秒たりとも
ないことも事実だった。