21日の朝 予定通り
メルボルンのクリスの家に
着いたという電話があった。
ポールの機嫌はすこぶる悪く
荷物を下ろすのも手伝おうとはせずに
車から 離れたところで
待っていたらしい。
2日めの夜 ホテルから
電話をくれた時には 部屋を別に
取らされたと言っていた。
マークのいびきが酷くて
ポールが眠れなかったからだ。
運転する人が 寝不足ならば
事故の危険性が高くなるので
ポールの主張はもっともだ。
マークは 自分のいびきが どんなに
すごいか わかっていないだろうけど
私は ポールの肩を持った。
Wild Turkeyが 無いと電話を
してきたが どうやら ポールが
捨てたらしい。
マークは 「僕が どれほどの恐怖と
戦っているか ポールは理解しようと
しないんだ。 ほんの2日ぐらいの
ことなんだから 大目に見たって
いいだろう」 と 私に訴えた。
確かに 私に電話してきたときの
口調からすると かなりベロベロに
酔っているみたいだった。
そこまでしないと 遠くに行くという
恐怖に勝てないのだろうとも
思えたけど 一緒にいたわけでは
ないので何が起きたのかわからない。
マークの 一方的な 話だけでは
何も言えなかった。
私にとって 一番大事なことは
メルボルンのクリスの家に着いた
という報告だった。
これで もう 絶対に
マークが戻ってくることはない。
それから さらに 2日して
ポールが帰って来た。
レンタカーを借りた店に返す時間に
間に合わないので クーランガッタの
空港の支店に返すことにしたと
電話で 言った。
「エリー 悪いけど 空港まで
迎えに来て」 と ポールが言うので
国内線の到着口の タクシー乗り場で
待つように言った。
ポールは 車に乗り込むなり
「アンクル マークは ずっと
酔っぱらって めちゃくちゃだった」
と 話始めた。 よっぽど
うっぷんがたまっていたのだろう。
マークは ずっと 酩酊状態で
酷いときには トイレに行くと言って
いきなりズボンを下げて歩き出し
ところかまわず おしっこをしようと
したこともあったらしい。
「あの時は 本当に アンクル
マークを残して 帰ろうかと思った」
と ポールが言う。
これを聞いたとき一緒にいなくて
よかった と心の底から思った。
もし 私が 一緒にいたら
本気でポールはいなくなっただろう。
「エリー 後は二人で 何とかして」
と 言い残して…
そんなことになったら
私は酔っ払いのマークをかかえて
しかも 全然知らない道を
走っていかなければなかった。
そう 考えただけで 私のほうが
恐怖でどうにかなりそうだった。
「夜の 豚みたいないびきも
酷かった」と ポールは続ける。
「医者に薬をもらっているのだから
酒まで飲む必要なんて全くないんだ。
それを 毎日 朝からずっと
飲み続けて…
僕が 酒の入ったペットボトルを
捨てたのに また 休憩に立ち寄った
ところで 買うんだ」 と
憎々しげに言った。
「話も 噛み合わないし…
自分が言ったことや したことを
何も覚えていないんだ。
狂っているとしか 思えなかった」
「そうだよね。 確かに 最近
ちょっと おかしいと思うことは
あったよ」 と 私は言った。
私が ポールの意見に賛成したのと
一気に話したことで 少しは
気が晴れたみたいだった。
「まあ アンクルクリスの家を
出てから 一人で あちこち回って
釣りもしたし 帰りはいい旅だった」
と ポールは言った。
家に着いて 「何か 食べる?
お茶でも飲む?」と 聞いたら
「空港でエリーを待っているときに
ブレッキーを食べたから いいよ。
このまま 帰る。 ありがとう」と
言ってポールは自分の車に
乗り込んだ。
いつも突然現れた
このわがままボーイと
会うことも もうないんだな
と ちょっと寂しい気がした。