(85) 透き通った朝日の中で…

エリカの日常

家に戻ると リビングに朝日が

差し込んでいた。

家中の窓を全開した。

 

なんて すがすがしいんだろう

家中の空気が澄みわたって

私を包んでいた。

 

ほんの少し前まで

薬とWild Turkey のせいで

ヘロヘロになったマークが

このソファーに座っていた。

 

その空間が ぽっかり穴が

開いたようになっていたけど

そこに 朝の透き通った光が

差し込んで キラキラと光っていた。

 

別れると決まってから 2か月半。

重く暗い空気が ずっと漂っていた。

マークの不安症は日に日に

大きくなり 旅をする重圧に

耐えているのがわかった。

 

私は 出来るだけ 刺激しないように

神経を研ぎ澄ましていた。

 

今 やっと 終わった!

私は 一人になった!

 

コーヒーメーカーから

いい匂いがしてきた。

コーヒーを飲みながら

ぼーっと 解放感に浸っていた。

 

ふっと直美先生の言葉が 浮かんだ。

「マークの 気が変わるってことは

ないのでしょうかねぇ?

出て行っても 帰ってくる

ということはありませんか?」

 

セッションの時は

「そんなことないと思います」

と答えたけれど

万が一 戻ってきたらどうしよう。

 

そんな不安が浮かんできた。

今日は12月19日。

21日にはメルボルンに着くと

マークは言っていた。

 

まずは ニューサウスウェルズ州に

入れば 結界を越えたことに

なるだろうか?

 

ここから30分も走れば州を超える。

朝 早いし ポールの運転なら

20分で行けるだろう。

 

州をまたぐという恐怖で

パニックを起こして 「引き返す!」

なんて 言わないだろうか。

 

全行程の半分以上進むまでは

油断できないのか… などと

いろいろな考えが浮かんできた。

 

時計を見るとマークが出て行ってから

1時間ぐらい経っている。

 

州越えに失敗したなら もう

帰ってきているはずだ。

 

きっと まだ 意識がもうろうと

していて パニックを起こさずに

すんだのだろう。

 

じっとしていると マイナス思考に

なりそうなので とりあえず 洗濯を

始めようと思った。

 

マークが 寝ていたベッドのシーツを

剥がして 洗濯機に入れる。

 

クイーンサイズの 大きなマットと

格闘しながら ひっくり返した。

私のお気に入りのシーツに替える。

 

今日から このクイーンベッドで

のびのびと 寝るんだ! っと

思いながら…

 

つい 時計を見てしまう。

3時間 経った。

今 リズモアのあたりを

走っているのだろうか?

 

時計を気にしながら 掃除をしたり

クロゼットの中を整理したり

一日中 動いていた。

 

帰ってくるはずはない!

と 信じて…

私の「家」を整えていた。

 

やっぱり 時計を見てしまう。

12時間 経った。

もう シドニーは

通り過ぎたのだろうか?

 

日本のドラマを見ながら

夕食を食べていると

携帯が鳴った。

 

「ハロー エリー。

今○▼※△☆▲※◎★●・・・・の

ホテルにいる」とマークが言った。

 

酔っぱらっているのか はっきりと

言わないので 聞き取れなかった。

 

でも とりあえずは どこかの

ホテルにチェックインしたみたいだ。

 

「Wild Turkey どこに入れた?」

とマークが聞くので

「最後に渡したバックの中に

入れたよ。 モーニングティの

ミートパイは食べたの?」

と 私が答えると

 

「ミートパイは 食べた。

Wild Turkeyがない」 と

ろれつの回らないような感じで

マークが言う。

 

「絶対に バックの中に入れたよ」

という私の返事を最後まで聞かずに

電話が切れた。

 

今の電話 一体 なに?

と思ったけれど

酔っぱらっているみたいだし

かけなおしても仕方がないと思った。

 

とにかく どこかのホテルに

泊まるんだ。

今日 1日 走ったのだから

かなり遠くに行ったんだろう。

もう 絶対に 戻ってこない。

 

そう 思うと もう 一本

ビールを取りに冷蔵庫に向かった。

 

今日 一日 何も考えないようにと

動き回っていたので

今 やっと 心から落ち着いて

ビールが飲める。

 

かんぱーい! と 思わず

声に出してグラスを上げた。

 

 

 

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