(78)心は日本…だったのに

エリカの日常

おいしいお米を食べよう。

卵ごはんだけでもいい。

 

おいしいパンを食べよう。

バターを塗るだけでもいい。

 

友達に会って…

お気に入りのレストランに行って…

 

ちょっと贅沢な

エステサロンに行って…

 

明日 飛行機に乗る。

でも もう心は日本… だった。

 

ウキウキしながら 朝食のフルーツを

用意していた。

 

リビングのソファーに

すごく苦しそうな様子で

マークが座っている。

話かけるのも ためらってしまう。

 

その時 救急車のサイレンの音がして

すぐ近くで止まった。

ドアが ノックされる。

 

開けてみると

救急隊員が2人立っていた。

「Is Mark here?」とひとりが言う。

 

ええっ!

マークが救急車を呼んだの?

 

「Yes」と言うと 大きなバッグを

持って 二人が入ってきた。

 

「どうしたんですか?」

と マークに尋ねる。

 

「呼吸ができない」

と マークが苦しそうに答える。

 

私に何も言わずに いきなり

救急車を呼ぶ? と 思いながら

様子を見ていた。

 

マークの胸に パットを張り付けて

心電図みたいなものを

とっているのだろうか?

血圧を測ったり、

なんか 色々なことをしている。

 

一通り 検査をすると

「歩けるか?」と マークに聞いた。

 

マークはうなずいて

ゆっくりと立ち上がった。

 

救急隊員の一人に支えられて

救急車に乗る。

ウソでしょ! って 正直思った。

 

「どこの病院に行くの?」と聞いたら

「ロビーナ」と 隊員が答えた。

 

慌てて 用意した身の回りのものと

携帯を渡して 救急車を見送った。

 

どうしよう! どうしよう!

今日 入院なんてされたら!

明日 飛行機に乗れないじゃない!

 

薄情なものだが マークの体よりも

日本に帰れなくなることのほうが

心配だった。

 

様子を見ていたけど 死ぬような

ことはないみたいだったから…

 

ヤキモキしながら

マークからの連絡を待った。

 

最終的に 荷物をチェックしたり

冷蔵庫の中身を

チェックしたりしながら…

 

昼過ぎに 携帯が鳴った。

「ハロー エリー」 マークからだ。

 

「大丈夫?」と 私が聞くと

「うん。 迎えに来て」と言った。

 

良かった。

入院しなかった。

きっとたいした事なかったんだろう。

 

病院に行くと 救急センターの

初療室に案内された。

それぞれのベッドは

カーテンで仕切られ 救急車で

運ばれた人たちが 寝かされていた。

 

一番端の窓際のベッドに

マークがいた。

 

「大丈夫?」と聞いたら

「もう 大丈夫」と弱々しく答えた。

 

看護士が 退院の書類を持って

来たので 荷物をまとめて

救急センターを出た。

 

「いきなり 救急車が来たから

びっくりしたわ。 ひとこと

言ってくれたら 良かったのに…」

と 運転しながら 私は言った。

 

「朝 起きたら 苦しくて

呼吸ができなくて、 もう 死ぬかと

思たんだ」と マークが言う。

それにしても…と 言いたかったが

会話が噛み合わないだろうと

思って やめた。

 

結局 パニック障害による

過呼吸発作だったのか

よくわからないけど すんなり家に

帰されたし 特に 薬を飲まなければ

いけない様子でもなかった。

 

朝ごはんも食べてないし おなかが

空いているだろうと思って

「ランチどうする?」と 聞いたら

「病院で サンドイッチを食べた」と

マークが答えた。

 

食欲もあるのなら 大丈夫だ。

 

「ケーキがあるけど 食べる?」

と聞いたら

「ちょっとだけ 食べる」と言うので

お茶をいれることにした。

 

いきなり 明日のことを話して

機嫌が悪くなるといけないので

落ち着くまで様子をみた。

 

ケーキを食べ終わったマークは

顔色もよく 普段通りに見えた。

 

「明日 私は日本に帰るけど

一人で大丈夫?」と

やんわりと話しかけた。

 

「ああ、 多分 大丈夫だと思う」

とマーク。

 

「一応メアリーに声をかけておくね。

それから何か買って欲しいものある?

今から 買い物に行こうと

思うけど…」

 

「特にないけど… はちみつと

何か 果物買っておいて」と

マークが言った。

 

ああ これで 私は日本に帰れる…と

胸をなでおろした。

 

 

 

 

 

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