(76) 日本に帰る前に

エリカの日常

翌日 La Grandeに出勤して

オーナーのキャロルに メルボルンに

行かないことになったと告げた。

「もう マークとは 終わったから」

と 私が言うと キャロルは

「また いつもの喧嘩じゃないの?

明日になったら また マークが

別れられないって 言うんじゃ

ないの?」と 本気にとらなかった。

 

昨日 銀行の口座を分けて マークが

12月19日に 一人でメルボルンに

行くことになったと 説明した。

 

「あんなに 仲が良かったのにね」

とだけ キャロルは言った。

 

「年末に向けて スタッフを募集

しようとしているところだったので

エリーがいてくれるのなら

安心だわ」と それ以上の詮索を

しようとはしなかった。

 

日本に帰る日が 1週間後に

迫ってきた。

友達とLINEでやりとりしたり

ネットで 買い物や マッサージの

お店を調べたりして すっかり

気分は「久しぶりの日本モード」

だった。

 

マークは 私の付き添いがないと

医者に行けないので

私が帰国する前に 処方箋を

もらうための予約を入れた。

当然 私が行くもの…という感じで。

 

オージーの時間の感覚はルーズで

たいていみんな予約の時間に遅れる。

 

朝1番の診察予約をしていても

レセプションが開いてなかったり

医者が来ていなかったりで

10分や15分遅れるのは当たり前だ。

 

でも マークは予約の時間15分前に

到着しないと 気が済まない。

 

この日は 2時の予約だった。

ランチの後 私が後片付けを

していると 医者に見せるつもり

だった書類がないと言い出して

一緒に探せと言う。

 

どんなものか見たこともなかったので

色々聞いたら 「とにかく 探せ!」

とパニックになってる。

「トレードノートに挟んでないの」と

聞いても 「ない!」と言うだけ。

 

人に物を頼む態度か? と思いながら

マークが 書類を突っ込みそうな

ところを 探した。

 

「これ?」 と クリアファイルに

入れた表の間に入っている書類を

見せたら 「それだ!」と 言って

ひったくるように取った。

 

こんなわけで 時間ギリギリに家を

出ることになってしまい、

マークのイライラは頂点に

達しているみたいだった。

 

信号が もう 赤なのに 止まらずに

行ってしまう。

カメラに撮られたら いくら罰金を

払わないといけないんだ? と

心配になる。

 

「みんな 遅れてくるんだから

今から行っても 十分大丈夫だよ。

そんなに 焦らなくても…」 と

私が言うと

「人は どうでもいい。

僕が 時間通りに行きたいんだ!」

と怒鳴る。

 

結局 10分ほど遅れて着いたが

診察されるまでに30分待たされた。

 

「一緒に 診察室に行く?」と

私が聞くと 「一人で行くから

ここにいろ」と

ぶっきらぼうに答えた。

 

自分のせいで遅くなって

自分が勝手に決めたルール通りに

いかなかったからって

私に当たることはないのに…

と思ったけど 「もう 関係ない!」

と 自分に言い聞かせた。

 

診察室から出てきたマークは

少し落ち着いたようだった。

 

私に対する失礼な態度を

あやまるなんてことはなかったけど

はにかんだように笑って

「薬を買いに行こう」と 言った。

 

車の中で 「ドクターに話したんだ。

僕たちが別れるって…」と

マークが話始めた。

 

「『あんなに 仲が良かったのにね』

って ドクターが言った後で

僕たちの結婚生活が 普通と違ってた

って 言うんだ」

 

「普通と 違うってどういうこと?」

って 私は聞き返した。

 

「ほら 僕たちが 結婚して すぐ

キャシーが同居しただろ?

ずっと 夫婦以外の人と一緒に

生活しているって普通の結婚生活とは

違うって 言うんだ」

 

いったい 何が言いたいんだろう?

キャシーが 同居することになった

原因はマークにあるのに…

こんな話 車の中で突然されても…

 

「もうすぐ 薬屋さんに着くし

帰って話そう」と 私は言った。

 

 

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