(73)信頼

エリカの日常

言わなくていいこと…

言っても仕方がないこと…

頭ではわかっているのに

ポロっと言ってしまう。

 

来月に 3年ぶりに

日本に帰ることになっていた。

 

それまでに タックスリターンの

書類に必要なデータを整理して

いらない書類と ファイルする書類を

分けて…

 

日本の家族や友人へのお土産を買って

必要なものを インターネットで取り

寄せて…

しなければ いけないことがたくさん

あった。

 

この日 まず タックスリターンの

データが完成した。

 

ホッと一息。 ということで

スパークリングワインを開けた。

 

ワインのおともに

アンチョビガーリックポテトを

作っただけで 後は 野菜やチーズを

切って クラッカーを用意した。

 

一応 クリームチーズに きゅうりの

ピクルスを刻んだものと

売れたアボカドが冷蔵庫にあったので

2種類のディップソースを

作っておいた。

 

スパークリングワインを1本空けた

ところで 2人とも物足りなくて

冷やしておいたロゼを

飲むことにした。

 

自家製のヌガーが 良く合って

思わず ワインが進んでしまった。

だんだん 酔っぱらってきて

つい口をすべらせた。

 

「一緒に メルボルンには行くけど

向こうで 『もう 別れる』 とか

言ったら ほんとに別れるからね」

と 言っても仕方のないことを

言ってしまい、

 

「あなたって 自分の家族には

弱いよね」 と 言わなくても

いいことまで 言ってしまった。

 

それがマークを思いっきり

怒らせてしまい 「お前を許さない」

 

「その言葉は 二人の結婚生活を

終わりにした」と言って

寝室に閉じこもってしまった。

 

「どうせ また いつもの

おしまい宣言だ」と

この時は軽く受け流しておいた。

 

しばらくして 寝室に入ろうとすると

鍵がかかっている。

マークが 中に閉じこもって

ノックしても開けてくれない。

「開けてよ」。 とガンガン

ノックしても 開けようとしない。

 

「今日中に することがあるから

開けて」 と言っても 完全に無視。

 

お前だけの部屋じゃないのに

私を閉め出すなんて!

と だんだん 腹が立ってきた。

 

かたくななマークの態度に

私も意地になって30分も

ガンガンしただろうか?

 

ふと 寝室の鍵があったことを

思い出して 取りに行った。

 

私が 鍵を使って 中に入ると

びっくりした顔でマークが私を見た。

 

無言のまま私は 自分の必要なものを

取って 寝室を出て もう一つの

ベッドルームで寝ることにした。

 

マークのいびきがひどくて 何度も

スペアベッドルームで寝ると言っても

「夫婦が寝室を別にするなんて」と

許してくれなかったくせに

自分の機嫌が悪くなると

私を閉め出すなんて

いつものことながら

自分勝手な男だ。

 

腹が立っていたけれども 最初から

一人で眠れるのは うれしかった。

夜中に いびきで起こされて

ベッドを移らなくてもすむ。

 

翌朝 いつもより スッキリと

目が覚めた。

やっぱり一人で眠ると疲れが取れる。

 

仕事に行く前に

支払いをしようと思って

銀行のサイトにログインしたら

パスワードが違うと出た。

 

2度 試したが駄目だった。

今日中に支払わないと

ペナルティがかかる。

 

マークと 話したくなかったが

仕方がない。

 

寝ているマークを起こして

「パスワードが違うって出て

支払いができない」と いうと

思いっきり不機嫌そうに

「パスワードを変えた」と言う。

 

二人の共同口座のパスワードを

勝手に変えるなんて…

この瞬間 「許せない」と思った。

 

かろうじて 私をマークの元に

とどめていた「信頼」という糸が

切れた。

 

「今日中に 支払っといて!」

と言って ドアをバタンと閉めた。

 

いつものように 「やっぱり

エリーがいないと ダメだ!」とでも

言ってくるのかと思っていたが

今回は本気で

怒っているみたいだった。

 

 

何がそんなにマークを怒らせたのか?

もうどうでもいい、という気がした。

 

「信頼」できない人を

理解する必要なんてないのだから…

 

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