(70) 外堀を埋めて  ーその1ー

エリカの日常

もう あなたは 自分の理想の世界を

作ってしまっている。

今よりも もっともっと

心が軽くなって

もっともっと 楽しい日々が

おくれるようになると…

 

たいていのことは ほとんど

行き当たりばったりで

自分勝手な解釈で 「これが最高!」

って 単純に 決めていたのに

意識したわけだはないだろうけど

今回 マークは

「外堀を埋める」という作戦を

とったみたいだった。

 

私が入院している間に 毎日

クリスと電話して

「絶対に メルボルンに行くから」と

勝手に約束してしまった。

 

それだけではなく、 処方箋の薬を

買いに行ったら薬局のピーターに

「マークと メルボルンに行くの?

弟さんの面倒を見るんだって?」

と 聞かれた。

 

マークの薬を定期的に買いに

行ってるうちに 親しくなって

いろいろと話すようになっていた。

 

ピーターも メルボルンの出身で

マークと二人で 故郷の話を

よくしていた。

 

「僕も メルボルンに帰りたいって

思うこともあるけど 気候がね…

ゴールドコーストの 年中暖かい

気候に慣れてしまうと メルボルンの

寒さに耐えれないと思うんだ。

歳をとってくると こっちの方が

住みやすい気がする。」と

ピーターが言った。

 

マークの薬はいつも私が買いに

行っているのに ほんの5日間

入院していた間に

薬が切れたのだろうか?

 

いったい いつ メルボルン行きの

話なんてしたんだろう?

 

翌日 ちょっと 熱があるので

クリニックに行ったら 「エリー、

マークと一緒にメルボルンに行くの?

大丈夫?  マークは 弟さんと

暮らすのを楽しみにしているみたい

だけど 脳梗塞で 倒れた人は

人格が変わる場合もあるわよ。」と

かかりつけの医者が言った。

 

きっと マークの処方箋がなくなって

医者の予約を取って それから

ピーターのところに行ったんだと

察しがついた。

そして べらべらと

メルボルン行きの話を

二人にしたに違いない。

 

「私は あんまり 行きたくは

ないんだけどね。 弟のクリスの

ことも よく知らないし…

でも マークは 決めてしまっている

みたいなのよねぇ」と

実は気乗りしていないということを

医者に言ってしまった。

 

「まあ 行ってみて ダメだったら

こっちに帰って来るわ」と

冗談交じりに会話を終えた。

 

クリニックから 帰ってくると

ポールが 電話してきた。

 

「今 そっちに向かってるから…」と

いつものように 突然

やってくるらしい。

 

今から 何ができるんだろう…と思い

冷凍しているカレーを

出すことにした。

 

インド料理のカレーを作るときには

Korma とTikka Masalaの2種類を

作る。 すると いつも余って

しまうので 冷凍している。

 

ほかにも タイのグリーンカレーと

レッドカレーを作ったときに

余ったものも冷凍していた。

 

今日は これで カレーパーティに

しようと思った。

 

後は ナンとチキンを焼いて

きゅうりのヨーグルトサラダを

作ったら それなりに

豪華になるだろう。

 

「マーク! 庭で バジル

採ってきて。」と 頼んだ。

 

以前 マークは 庭仕事が好きだと

言って 色々な野菜を

植えようとした。

 

虫が嫌いで ガーデニングには

全然興味ない私にガーデニングが

どんなに素晴らしいか…

 

今は ユニットに住んでいるので

小さなバックヤードしかないけれど

FXで 儲けて 大きな家を買って

その庭をどんなふうにしたいか…

などと マークは 熱く語って

いたのだが ある日ミジーという虫に

にあちこちかまれて

腫れあがるという ひどい目に

あって以来 ピタっと庭仕事を

辞めてしまった。

 

あの時も 思いつきで

いろんな野菜の苗を買ってきたのに

結局 無駄にしてしまった。

 

今は バジルとパセリ ネギを

プランターに植えているだけだ。

 

 

 

 

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