(69) 退院パーティ その2

エリカの日常

結婚して 間もないころ マークは

誰にでも

「エリーの料理はおいしいよ。

日本食が あんなに素晴らしいなんて

知らなかった」と 話しては

「うちに 食べにくる?」と

誘っていた。

 

その中の オージーの老夫婦は

「私たち シーフード 大好きなの。

日本食も好きだわ。」と 言って

ぜひ ランチを食べたいと言った。

 

それで マークが 私の了解も得ずに

二人を招待した。

 

その老夫婦は 手ぶらでやってきた。

これだけでも びっくりしたが…

 

その時は 唐揚げ 野菜サラダ

ひじきの煮物 ツナときゅうりの

細巻き 冷やしうどん…

といったものを用意した。

 

唐揚げは バクバク 食べていたが

野菜は嫌いらしく 何も食べず

シーフードが好きだと言っていたのに

一口ずつ食べては ひじきも海苔も

海藻臭くて嫌いだ と言った。

 

おまけに 冷やしうどんに 錦糸卵

きゅうり ハム シイタケを

トッピングして 盛り付けたものを

二人とも ぐちゃぐちゃに混ぜて

つゆをかけ

「私はマッシュルームが嫌いなの。」

と 妻は言い,  夫は

「このスープ 魚臭い」と言って

一口食べただけで 残した。

 

なんて 礼儀知らずなんだろう!

と この時 ホントに腹が立った。

 

彼らのいう シーフードは きっと

フィッシュアンドチップスに

違いなかった。

 

あの時 マークに

「私がどれだけの手間をかけて

料理を作ったと思うの?

あなたが おいしいと思うものでも

ほかの人が好きとは限らないし

日本食が どんなものかも

知らない人もいるでしょ。

あの二人は 単に 好奇心で

食べに来ただけじゃないの!

タダだから!」 と

 

思いっきり 怒ったので それ以来

誰も招待しなくなった。

 

メアリーは 日本食も食べたことが

あるし 日本の家庭料理を

食べてみたいと言っていたので

和食にした。

 

メインにチキンの照り焼き。

後は いんげんの胡麻和えや

大根と人参のなます、

寿司サラダを作った。

 

マークが お気に入りの

揚げ出し豆腐をリクエストしたので

それも用意した。

 

メアリーは 揚げ出し豆腐のだしが

すごく気に入ったみたいだった。

 

「このスープ ショウガがきいていて

おいしい。 お代わりしていい?」

だしは 残っていたけれど

あんな濃いだしを飲むなんて…!

とびっくりした。

 

タイ料理は 味が濃いので

スープ感覚で 飲めるのか

結局 残っただし全部を

おかわりして 飲んでくれた。

 

「エリー メルボルンに

行ってしまうのね。

そしたら こんな料理もう

食べられないわ」 と

メアリーが言った。

 

ちょっと びっくりして

メアリーを見たら

「マークが 言ってたよ。 弟の

面倒みるんだって? 寂しくなるわ」

と 続けた。

 

どうやら 私の入院中に

クリスと毎日電話で話していて

私とメルボルンに行くからと

言ってしまったらしい。

 

「まだ クリスには 言わないでね」

と 念を押していたのに

私のいない間に 勝手に話を

進めてしまったみたいだ。

 

それで メアリーにも

メルボルンに行くと 話したらしい。

 

クリスと電話で話しているうちに

兄弟仲が 良かった時のことを

思い出して メルボルンに行ったら

また あの時のように

楽しく暮らせると 勝手に

思い込んでいるみたいだった。

 

仲たがいしていた時のことは

すっかり忘れて

「兄弟なんだから 何でも

理解し合える」と また 幻想を

いだいているに決まっていた。

 

脳梗塞を起こすと

人格が変わる人もいるし

それでなくても

何年も会っていないうちに

人は 変わるものなのに…

 

もう 私が何を言っても

「メルボルンに行く」と

マークは 決めてしまっているんだと

憂鬱になった。

 

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