(54)家族なんだから

エリカの日常

兄弟で 電話のやりとりをするように

なってから 3か月ほどたった時

兄のデビットが

イースターホリデーを利用して

パースから訪ねてくることになった。

 

「エリー、 デビッドが

今度のイースターホリデーに

うちに来るって。

ここに泊めてもいいよね」

 

「えー? うちに 余分なベッド

ないでしょ。」

 

薬の影響か マークのいびきが

あまりにもひどくて

何度も起こされるので 今は

私が ヨーコさんのいた部屋に

避難していた。

 

「エリー 僕と一緒に寝たら

いいんだ」

「そしたら 私 眠れないじゃない」

 

「大丈夫だよ。 僕が いびきを

かいたら 起こしてくれたら

いいんだから」

 

起こしたって またすぐにいびきを

かくので 結局眠れなかった。

 

おまけに 人と争う夢を見たりすると

いきなり 横で寝ている私の髪を

つかんだり 私を蹴ったりすることも

ある。 本人は 夢の中で戦っている

かもしれないが 私はいい迷惑だ。

 

「どこか 近くの ホテルに泊まって

もらえないの?

La Grandeでもよかったら

オーナーに安くしてもらうけど…」

と 私が言うと

「家族なのに!」 と 怒り出した。

 

「家族を ホテルに泊めるなんて。

デビッドが 来たら 僕はリビングの

床で寝ても かまわないから」

 

マークにとっては 床で寝ると

いうのは とても屈辱的なことだ。

 

日本のドラマを見ていて 和室に

布団を敷いて寝るシーンがあると

「床に寝てる」と いつも

驚いたように言う。

 

これが日本の文化だと言っても

納得できないらしい。

 

だから マークにとって

自分は床に寝てもいいから

兄を泊めたいというのはそれぐらい

兄を大事に思っていると

訴えたいんだろう。

 

でも 冷たい言い方かもしれないが

デビッドは マークのお兄さんかも

しれないが 私は会ったこともないし

電話で ハローって 挨拶した程度の

知り合いでしかない。

 

私にしたら 単に自分の意見を

押し通そうとしているとしか

思えなかった。

 

「何日 泊まるの?」 と

半分あきらめて聞いてみた。

 

「3日ぐらいって 言ってた。」

もう 勝手に ここに泊まることに

話はついているんだと思った。

 

「その後 ブリスベンのポールの

ところに行って それから

友達のところを訪ねるらしい。

たった3日なんだから いいだろ?」

とマークは決めつけたように言った。

 

結婚してから もうすぐ10年に

なるというのに その間 ほとんど

音信不通だった兄弟が

急に親密になってしまった。

 

それは それで いいことだが

私を巻き込まないでほしいと思うのは

自分勝手なんだろうか?

 

これ以上 何か言っても どうせ

聞こうとしない とあきらめて

「3日だけなら 我慢する」と

私は言った。

 

その後 早速 eBayで

ベッドマットレスを探した。

 

空気を入れるタイプのものは

すごく寝心地が悪いと聞いていたので

スプリングのマットレスを探した。

 

送料が 高くつくのは嫌なので

圧縮タイプのものを選んだ。

 

5日ほどして

マットレスが配達された。

長さは シングルマットの幅だったが

厚みは 50cm四方になっていて

びっくりした。

 

開けてみると圧縮されたマットレスが

丸まって出てきた。

 

ビニールを破いたら 一気に広がって

マットレスになった。

 

「うわー」と 私は

最新のテクノロジーにびっくりしたが

マークは 「どうしてこんなもの

買ったの? 必要ないでしょ」

と 不機嫌だった。

 

よっぽど 「あなたが リビングの

床で寝るために買ったのよ」

と言ってやりたかったが

 

「マークがいびきをかいたとき

私はどこに いけばいいの?

あなたがリビングで寝ていたら

朝 物音を立てないように

気を使わないといけないでしょ。

私がリビングで寝るから 必要なの」

と 言った。

 

不必要なブレンダーを300ドルも

だして買うことを思えば

これは必要経費だ。

 

私は私の健康を

自分で守らないといけない。

 

これでデビッドが来る準備は整った。

 

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