(52) Neutribullet ーその2 バナナのスムージーー

エリカの日常

次の日から マークは バナナ入りの

スムージーを飲むようになった。

 

バナナとリンゴの味が

しっかりしていて ケールは少なめに

したので おいしくてすっかり

気に入ったようだった。

 

最初はレシピ本を読んで

割合を気にしてスムージーを

作っていたのに

「もっとおいしくするために」と

マークは だんだん バナナの量を

増やしていった。

おまけに 私が仕事に行っていない間

小腹が空いたら スムージーを作って

飲んでいたらしい。

 

ポールは 朝食代わりにスムージーを

飲んだり 昼に食べ過ぎた場合に

夕食をスムージーにして痩せた。

 

でも マークは 朝食以外は

普通に食べて そのうえ大量バナナの

スムージーを飲んでいた。

 

確かに 甘いものを食べたり

チーズクラッカーを むしゃむしゃ

食べることはやめた。

 

「スムージーを飲むと痩せる」と

信じ込んで 1日に 何度も作って

飲んでいた。

 

その結果 3週間ほどすると

見た目でもわかるぐらい

顔がパンパンに張ってきた。

 

何日か 気分のすぐれない日が

続いたんだろう。

暗い顔をしてマークは言った。

 

「がんかもしれない。 体がだるくて

エネルギーが切れてる」

 

悪いけど 吹き出しそうになった。

でも本人はいたって真剣だった。

「パンパンに顔が太ったがん患者!

いないでしょ。」と

心の中で突っ込んだ。

 

「がんが発生すると 痩せるって

聞くけど マーク 最近

太ったんじゃない?」と

笑いをこらえて 私が言うと

「太った?」 と マークは

驚いたように言った。

 

「スムージーを飲んでいるのに…」

と 意外そうに言った。

 

「毎日 どれだけ飲んでるの?

バナナって 完全栄養食って

いうぐらいだから 食べ過ぎたら

太るよ。 朝食 以外にも

スムージー 飲んでいるでしょ」

と私は言った。

 

がんになったかもしれないという

不安よりも 太った事実の方が

マークにとっては

ショックだったのか?

 

この日から スムージーを

自分で作るのはやめた。

 

そして 思いついたときに

「エリー スムージーが飲みたい」

と言う。

 

「自分で作るって 約束したでしょ」

と 私が言っても

「エリーが作ったほうがおいしい」

とか言って

結局 私が作ることになった。

 

何か 起きるたびに 思うことだが

メンタルシックネスを持っている人に

対して どこまでが

許せる領域だろう? ということだ。

体のどこかが 不自由になっていれば

明らかに どうサポートすればいいか

がわかる。

 

もちろん 100%望まれている

状態でないにしても…

 

でも メンタルの場合は

見当がつかない。

今回の 夜中に何かを食べなくては

落ち着かないというのは 明らかに

異常なことだが その背景に

何があるかによって 対応の仕方は

変わってくるだろう。

 

私は専門家ではないのでわからない。

ただ マークが自分勝手でわがままだ

としか思えなかった。

 

マーク自身はつらい日々を

送っているのかもしれなかったが

常識で考えて 夜中に何かを食べたり

間食を不必要に取れば

太るに決まっている。

 

でも マークがつらい状況を脱する

唯一の方法が 何か食べることならば

私に何が言えるだろう?

 

冷静に考えても 私には

何もできなかった。

 

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