無常の現実を受け入れる
そうすれば 今あるものを
失う苦しみから解放される。
今ある 苦しみが
永遠のものではないと救われる。
ヨーコさんが
無事にアセスメントを提出し
試験にも受かって学校を卒業した。
少し 日本に帰って
リフレッシュするつもりだと言って
部屋を出て行った。
せっかく いい友達になれたのに
とても寂しいと思ったが仕方がない。
2年間 よくマークのいる我が家で
我慢してくれたと感謝の気持ちで
いっぱいだった。
今となっては あの重苦しい日々も
なんだか
懐かしいものになっていた。
最近のマークは 前にもまして
ネガティブなムードが強くなり
怒りっぽくなっていた。
だから もう シェアメイトを
募集するのはあきらめてしまった。
ヨーコさんが出て行って
1週間ほどしたとき
マークの甥のポールが
フラッと訪ねてきた。
マークのお兄さんの長男で
20歳になったときに パースから
ブリスベンに来て 時々
連絡もなしに 訪ねてきた。
マークは ポールが来ると
とても嬉しそうで
二人でビールをガンガン飲んだ。
前もって 来ると連絡をくれたら
いろいろとポールの好きなものを
作ってあげられるのに
いつも突然 現れる。
この日は 冷凍庫に
大量に作った餃子の残りがあったので
とりあえず それを焼いた。
「エリーの餃子 一番おいしい」と
ポールは パクパク食べた。
マークの身長は180cmだが
兄のデビッドも 弟のクリスも
そして ポールも190㎝以上ある。
だから マークは自分のことを
小さいと思い込んでる。
「マークは 大きいグループの中では
小さいほうかもしれないけど
十分大きいよ」
と 私は笑って言った。
162㎝の私は 二人の間に立つと
小人みたいな気になった。
マーク 一人だと
そんなに思わなかったが
二人並ぶと 威圧感がある。
それでも マークは自分が小さいと
思っているので 私がマッサージを
頼まれたときに
「マークは大きいから 疲れる」
と言っても 「僕は 大きくない」と
言い切って 全く悪気なく
マッサージを頼んでくる。
おまけに ポールが家に来た時に
「エリーはマッサージがうまいんだ。
してもらったら?」と
余計なことを言う。
マークより大きな
ポールのマッサージなんて…
と 思っていたら
さすがに 若いポールは
「マッサージなんて 必要ないよ」
と 断ってくれたので ホッとした。
「この間 会ったときよりも
少しやせたみたいね。」
と 私がポールに言うと
「朝 スムージーを飲むことに
したんだ」と 答えた。
ケールや レタスなどの葉物野菜に
フルーツを加えたスムージーを
朝食にとるようにしたらしい。
時間の無いときは とりあえず
ブレンダーにかけて スムージーを
オフィスに持って行く。
今までは 朝食抜きで 家を出て
モーニングティの時間に
近所のカフェで フライドポテトや
ミートパイを食べていたが
スムージーを 飲むようになって
朝のジャンクフードを
取るのをやめたらしい。
ポールが帰った後 思った通り
「うちも スムージーを飲もう」と
マークが言い出した。
兄弟と電話で話したり ポールが
訪ねてきて何か言ったりしたら 必ず
聞いた通りのことをしたがるのだ。
「青い葉っぱをスムージーに入れたら
匂いがきつくて おいしくないよ。
それに 私は作らないかね。」
と きっぱり断った。