(47)自転車に乗ろう

エリカの日常

次の日 早速マークが 「エリー

自転車に乗ろう」と誘ってきた。

 

同じユニットに住むメアリーが

ビーチバイクを持っていて

いつでも乗っていいと

言ってくれていた。

 

「メアリーに 頼んでくる」

と言って 自転車を借りに行った。

 

「僕についてきて」と言うので

後をついていく。

私は きっと 近くのビーチの

サイクリングロードに行くものと

思っていた。

 

マークは 家を出てビーチとは

反対の方向に行き始めた。

200mほど行って右折する。

そしてまた200mほど行って右折。

 

結局200m行っては

右折を繰り返して

1周回って帰って来た。

 

時間にして10分ぐらいだった。

「今日は これぐらいにしておこう」

とマークが言った。

 

「ビーチのサイクリングロードに

行かないの? きっと

気持ちいいよ」と私が言っても

「いきなり 遠くには行けない」

と言う。

 

まるで 自転車に乗り始めた

子供みたいだった。

練習するために近所をまわっただけ。

 

それでも マークにしてみれば

大冒険だったのか 家に帰るとすぐに

「ああ 疲れた」と 言って

シャワーを浴びに行った。

その後で いきなりビールを開ける。

 

自転車を買う もう一つの理由は

「運動をして痩せること」だった。

 

「壁を打ち破ること」と 二つの

大義名分を掲げて私を説得したのだ。

 

たった10分 フラフラと近所を

回っただけなのに 帰って

いきなりビールを飲んでいたら

痩せるはずがない。

 

準備体操ほどの運動しか

していないのだから

体が温かいうちに ちょっとは

筋肉トレーニングでも

すればいいのに…。

 

翌日 「今日は コースを変えて

みよう」 と言って

昨日と反対の方向に向かった。

 

ビーチに行くのかと思って

ついて行ったら ビーチ手前の

交差点で左折して

大通りを進み始めた。

 

もう少し行けば ビーチの

サイクリングロードで

海のフレッシュな空気を

感じることができるのに なぜ

交通量の多い通りを選んで

排気ガスを吸わないと

いけないんだろう?

 

「結界」が もっと もっと

迫ってきているのだろうか?

 

2日目にして 私のほうが

サイクリングにウンザリしていた。

 

でも せっかく マークが

頑張ろうとしているのだから

付き合ってあげないと

仕方がない。

 

どうせ そんなに長くは

続かないだろうから…。

 

思った通り マークの最初の

意気込みはすぐに消滅して

4日目には 自転車に乗ろうとは

言わなくなった。

 

「買い物に 自転車で行く?」と

聞いても 「今日は やめておく」と

誘いには乗らなかった。

 

やっぱり この自転車も

ホコリをかぶる運命なんだと思った。

 

購入してから1か月たった時に

自転車の調整を無料でしてくれる

サービスがあった。

 

調整してもらうほど

乗ってはいないのだけれど

きっかけになると思って

「自転車 チェックしてもらいに

行く?」と聞いたら 「そうだね。

行こうか?」と予想外の返事が来た。

 

気が変わる前に さっさと出かけた。

今回も 私は車でマークを

追い越しては 路肩に寄せて待って

また 追い越しては待つという

面倒くさいことをしながら

ついて行った。

 

自転車屋さんまでの道は

向かい風がきつくて

ペダルをこぐのは大変だった。

 

一生懸命に 自転車をこいでいる

マークの後姿を見ていると

せまってくる壁と懸命に

戦っているような気がして

応援する気持ちと

切ない思いがあふれてきた。

 

 

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