トレードを始めてから
5年ほどたつが いまだに
稼いではいない。
マークは いわゆる「聖杯さがし」を
し続けているだけだった。
ひとつの手法がだめだと思うと
次の手法を試す。
ネットで知り合ったブラジル人の
友達も 同じようなタイプの人で
手っ取り早く稼ぐ方法を
さがし求めていた。
彼は自分でトレードツールまで作って
「これを使うと
エントリーポイントが簡単にわかる。
使ってみて」と言って
マークに使用を許可して
二人でいろいろ検証していた。
どんなことでも 一つの基礎を
しっかりと 繰り返して
落とし込んでいかなくては
ものにならない。
それなのに マークは友達と二人で
あれこれ 簡単に勝てる手法を
さがし続けていた。
私にも FXの勉強を一緒にしようと
毎日 毎日 うるさく誘うので
仕方なしに いくつかの講座を
聞いてみたが もともと知識が
ないので 英語で聞いても
さっぱりわからなかった。
それで 私が理解できそうな話を
している日本のサイトを見つけて
少し勉強することにした。
そのサイトのはじめの部分は
たいてい FXトレードに対する
注意事項だとか 基本的なトレードの
仕方を説明するので
何回か聞いているうちに
「ああ また この話か」と
思うようになった。
それで その講座を聞くときには
始めの部分はつけっぱなしで
家事をしたり 体操をしたりしながら
聞くようになっていた。
ある日 マークが その講座を聞きに
来て 「ここに 座って
真剣に聞け!」と私に言った。
「今日は 僕も 一緒に聞くから」
と 私に横に座るように言った。
マークは ひとことも日本語が
わからない。 それなのに
何を聞くつもりなんだろう?
私は やりかけの掃除を
すませてしまいたかった。
嫌々 横に座って聞いていると
この日はいつになく 一般的な話が
長かった。
画面にはチャートが映っている
けれども 話している内容は
「トレードもスポーツと同じで
ひたすら 練習するしかない。
理論はわかっても 実践できるか
どうかは 別問題」 というもので
ゴルフに例えて いろいろと
話していた。
「マーク! 今日は ゴルフの練習と
トレードの練習は 同じようなものだ
と 話しているだけだよ」 と
いい加減 しびれを切らして言った。
「私は掃除を終えてしまいたい」。
マークは ブスッとして
「じゃあ 行けば…」と言った。
後日 この話を 直美先生に
したけれども
「どうして ひとこともわからない
プログラムを見ようと
思ったのでしょうね」と
感想を言っただけだった。
ヨーコさんも 「わけがわからない」
と 言っていた。
この時 なぜマークがこんなことを
言ったのかは 全然
わからなかった。
理由もなく 思い付きで
自分の言うことを
私に聞かせたかっただけなのかも
しれない。
ただ
自分の居心地のいい王国をつくって
そこで私が言いなりになれば
心地よかっただけかもしれない。