バカ女のことを
へらへと話したマークの顔が
脳裏に焼き付いて離れなかった。
今回ばかりは 許せない、
という気持ちでいっぱいだった。
今までは 何か
腹の立つことがあっても
しばらくすると
何事もなかったかのように
ふるまっていたが
今回は 無理だった。
最低限の会話しかできなかった。
この間の出会い系サイトの女性との
デートの件も含めマークに対する
信頼はゼロになっていた。
「もう 一緒に いられない」
という思いが ぐるぐると
頭の中で回っていた。
久しぶりに登場した「へびさん」を
追い払うことなんて 出来なかった。
2,3日経っても 私の機嫌が
直らないので マークの方から
おそるおそる話しかけてきた。
「エリー、 この間のこと
まだ 怒ってる?」
「何のこと?」
つっけんどんに答える。
「僕がエアーホステスのことを
話してから エリーの機嫌が
ずっと悪い」
「あんなことを スラスラと
全部話すなんて…」
「ごめん。 女の人は パートナーの
過去の女性の話を
聞きたがらないよね」
「じゃあ どうして私に話したの?」
「それは エリーが 聞いたから」
「私は ただ いつ? って
聞いただけ。
誰がどんなふうになんて 聞いてない」
「エリー、それは君が
日本人だからだよ。
オーストラリアの女性だったら
When? って聞いたら それは
全てを話してって ことになる」
「そうなの?」
「僕だって こんなこと
言ってもいいかな? と思いながら
エリーが聞いたから答えたんだ」
そうなのか? ネイティブの会話では
そういうやり取りになるのか?
過去の女性のことを話すのは
タブーだとわかっていたのか。
そう思うと 不思議なことに
腹立ちは消えていった。
直美先生のセッションで
このことを話した。
マークが ヘラヘラと バカ女の話を
したときの腹立たしさと
それが言葉のいき違いから
くるものだとわかって
怒りが収まったということを…。
すると 先生の答えは
「マークが 何を言おうと
何をしても関係ないのです。
全ては エリカさん
あなたの判断です」 と
予想外のことだった。
「あなたは マークが
過去に付き合った女性のことを
話したときに どうして
腹が立ったのですか?」
「マークが 嬉しそうに
バカ女の話をしたからです」
「その話にどうして
怒りを感じたのですか?」
「私は マークが望むことを
できる限りしてあげて
マークのために 我慢していることも
たくさんあるのに そんなことを
全部忘れて セクシーであることしか
取り柄のない女の話を
嬉しそうにしたから…」
「人は 自分の存在価値を
否定されたように感じた時に
怒りを感じます。
エリカさんの場合 あなたが
マークのために
一生懸命したことよりも
その女性の行いの方が 彼にとって
魅力的に思えたことに対して
怒りを感じたのでしょう」
確かに 私が今まで
マークのためにしたことに対して
正しい評価をしてほしいと
思っている。
これを 承認欲求というらしい。
「エリカさんの承認欲求が
満たされなかったとき
あなたの体のどこかが
反応したはずです。
それを
あなたの脳は覚えているのです。
この反応は「悪いこと」だと。
ですから あなたが
ひどく傷ついたとか
ひどく腹が立ったという感情は
承認欲求が満たされなかったときに
あなたの体の中で
同じ反応が出ただけで
それをあなたの脳は
「悪いこと」と
処理しただけなのです」。