ある日 3人で食事に出かけたとき
「今日だけは ずっと英語で話して。
お願いするよ」と マークが
私とヨーコさんに言った。
「マークといるときは いつも
英語で話しているでしょ」
と私が言っても
「お願いだから 今日だけは
英語で話して」と繰り返す
だけだった。
レストランで 案内された席が
店の真ん中の
落ち着かない席だった。
「あっちの席の方がいい?」 と
私がヨーコさんに日本語で
聞いてしまった。
「今日だけはって 頼んだだろう。
どうして言うことを
聞いてくれないんだ。
今日だけ って言ったのに!」と
マークがいきなり怒った。
「ごめん。 あっちの席の方がいい?
って 聞いただけ。
そんなに 重要なことじゃないよ」
と私が言っても 聞く耳を持たない。
「あれほど 頼んだのに
どうして日本語を話すんだ」と
完全にへそを曲げてしまった。
マークと二人なら 食事をやめて
帰るところだが ヨーコさんを誘って
わざわざ出かけてきたので
そういうわけにもいかない。
おなかもすいているし
楽しみにしていたランチコースを
頼んだ。
食事の間 マークはずっと不機嫌で
私やヨーコさんが話しかけても
ろくに返事もしなかった。
私とヨーコさんは ずっと英語で
話をしていた。
会話に参加する気もない
マークのために なぜ 英語で
話さないといけないのかと
思いながらも…。
後日 カウンセリングの時に
直美先生にこのことを話した。
「自分のわからない言葉で
話をされると 自分が仲間外れに
なっていると 感じる人も多い
みたいです」 と教えてくれた。
ついでに 最近のマークの物忘れや
作り話が多いことも話した。
自分が失った記憶を穴埋めするために
作り話でつじつまを合わせようと
することがあるそうだ。
薬の副作用と言えるかもしれないが
はっきりしたことはわからないと
答えてくれた。
マークは 3人兄弟の真ん中で
兄や弟と比べると
「自分は愛されていない」と
思っていたような気がする。
2つ上の兄は少し病弱で
何かと手がかかったし
弟は5歳下なので
甘やかされていたみたいだ。
幼いころ
両親に愛されていないと感じ、
常に 「もっと愛して欲しい」と
願って育った子供がいる。
そういう子供が大人になると
愛情に対する欲求がとても
強くなるらしい。
いつも いつも
「自分を認めてほしい」
「自分を満たしてほしい」と
自分に気を引こうとするようになる。
これがインナーチャイルド。
幼いころ 満たされなかった思いを
大人になってから
「もっと もっと」と 求めてくる。
自分が何かを与えるなんて
考えない。
ただ 貪欲に 愛を求める。
「僕を愛して」 「僕を見て」
「僕にかまって」と…
いったいマークはどこまで
私のエネルギーを奪い取ったら
気が済むんだろう?
どれだけの 「愛」を与えたら
満足するんだろう?
ヨーコさんの休日を台無しにして
申し訳ない思いと マークに対する
静かな怒りがこみあげていた。