ハネムーン。
日本語では新婚旅行を意味するけど
英語では
結婚直後の幸せな期間という意味もある。
付き合いだしてから
アッという間に結婚してしまったので
ハネムーンの計画は立てていなかった。
マークの故郷のメルボルンに行こうか?
という話も出ている。
マークは高所恐怖症で 飛行機には乗れない。
旅行は車で行くところに限られる。
ゴールドコーストから メルボルンなら
2、3日で行けるらしい。
もう少し 落ち着いてから 考えようと
二人の意見は一致していた。
新婚生活は 幸せいっぱいだったので
別にどこに行かなくても構わなかった。
私がキッチンで料理をしているとき
たいていマークはノートパソコンを
ダイニングテーブルに持ってきて
コンピューターで 何かしていた。
「Ellie」 と 呼びかける。
「何?」 と答えると
「I love you.」 と言って 微笑んだ。
こんなことが 1時間の間に2,3回。
私も 「I love you」 と必ず返事をしていた。
マークがソファに座って 本を読んだり
テレビを見たりしているときに
私が後ろを通ると
マークは必ず手を肩越しに差し出してきた。
私は その手を握り返す。
それが
愛を確かめ合う儀式みたいになっていた。
毎日の食事はまるでパーティタイムだった。
マークがテーブルセッティングを担当。
ランチョンマットを敷いて
紙ナプキンを丁寧に置いて
ナイフとフォークを置く。
ゆっくりと まるで
VIPをサーブするウェイターのように。
料理が好きな私は盛り付けにも気を配った。
「毎日がレストラン みたいだ」
「こんなに おいしいサンドイッチ
食べたことない」
「日本食って ほんとにヘルシーで
素材の味を生かしてるんだ」
などと絶賛しながら
本当においしそうに食べてくれた。
「後かたづけは 僕がする」 と言って
食器をシンクに運んで
大きな音で音楽をかけて 洗い物をしていた。
二人でよく 日本のドラマを見た。
日本人が経営するレンタルビデオ屋で
日本のドラマを借りてきた。
マークは 日本語が 全然わからない。
それでも 日本の風景や
文化が 珍しいらしく 一緒に見たいと言った。
「僕は 飛行機に乗れないから
日本には行けないし」
というのも理由の一つだったのだろう。
ドラマを見ても セリフがわからないので
ワンシーンごとに止める。
するとマークが 今の場面で
何を言っていたのかを推測して語る。
そして 私が 説明する。
こんなふうに ドラマを見ていると
1本見るのに すごく時間がかかってしまうけど
違う見方ができるので それはそれで
すごく楽しかった。
休日には お気に入りのレストランで
テイクアウトを買って
ビーチでサンセットを見ながら
ディナーを食べた。
二人とも
あまりにぎやかなレストランは
好きでなかったので 波の音をBGMに
見つめ合いながら 食事を楽しんだ。
「Ellie, I love you.」
「Ellie, きれいだね」
「Ellie, こっちにおいでよ」
マークの愛に 溺れるような日々だった。